関節リウマチ 歯科衛生士に知ってほしい!病気のことvol.6

いつも見ている患者さんの全身状態に目を向けられるように、
看護師向け医療専門メディアのナース専科とタイアップ。
第6回は 『関節リウマチ』 について解説します!

そしがや大蔵クリニック 院長 中山 久德先生

解説してくれる医師

そしがや大蔵クリニック 院長

中山 久德先生

早稲田大学卒業後、広告出版会社に勤務。その後、医師を志して再受験し、国立山形大学医学部へ。東京大学医学部附属病院、関東中央病院、東京都立駒込病院勤務を経て、国立相模原病院(現・国立病院機構相模原病院)リウマチ科医長。2012年に同クリニックを開業。日本リウマチ学会専門医・指導医・評議員、日本骨粗鬆症学会認定医・評議員、日本内科学会総合内科専門医。

ABOUT

関節リウマチはどんな病気?

関節リウマチは免疫の異常が背景にあって起こる全身疾患です。免疫とは細菌やウイルスなど外から入ってくる異物から身体を守る、非常に重要な生体防御システム。その働きの基本は自分(自己)と自分でないもの(非自己)を見分けることにあり、非自己と判断したものを攻撃します。ところが、何らかの原因で自分の中にもともとあるもの(自己)を異物(非自己)だと見誤って攻撃してしまうことがあります。これを自己免疫異常といい、関節リウマチの場合では関節を取り巻いている「滑膜〈かつまく〉」がその標的になります。

異物だと間違って認識された滑膜には炎症細胞が集まり、攻撃が始まります。滑膜に炎症が起こると、関節は赤く腫れ上がって、熱を持ち、痛みを生じます。これが関節の炎症です。炎症のかたまりが関節を構成している軟骨や骨を蝕んでいくと関節は本来の形が壊れ、変形してしまいます。こうした関節破壊が進行すれば、もとの状態に戻すことはできなくなります。

このような免疫の働きが自分自身を攻撃してしまう全身性の自己免疫疾患には、関節リウマチのほかに、シェーグレン症候群や全身性エリテマトーデスなど、比較的若い女性に多く発症する病気もあります。一般にこれらを総称して「膠原病」と呼んでいます。

正常な関節と関節リウマチの関節
関節リウマチで症状が出やすい関節
SYMPTOMS

どういう症状が現れるの?

関節リウマチの症状は、手の指や足の指のような小さな関節から起こることが一般的です。女性の場合は、炎症を起こしている関節が腫れて指輪が入りにくくなったり、朝の家事や身支度のときに手のこわばりや痛みが続いて気づくことも多く、初めは1カ所だけだったのが、徐々に複数の関節に症状が及ぶようになります。必ずということではありませんが、典型的な関節リウマチの患者さんでは関節症状は左右対称に現れます。このほか微熱、倦怠感、貧血、骨がもろくなる(骨粗鬆症)といった全身症状を伴うことがあります。微熱や気だるさが長く続いて、いろいろと検査をしたら関節リウマチだったということも少なくありません。

さらに肺や皮膚、眼、心臓・血管、腎臓・消化管などさまざまな臓器に関節外病変が現れることもあります。

その他関節以外に起こる症状

また日々の生活での注意として、痛みが強い場合には痛みのある関節に負荷をかけないことが大切です。例えば、日常的にパソコンを使うなら手関節に負荷がかからないようにクッションをおく、荷物を持つときには手で持つよりも、大きな関節である肘や肩にかけるといった工夫をするとよいでしょう。

ただし、痛みがあるからといって関節を動かさないでいると、筋肉が弱まるだけでなく筋肉と骨を結びつけている腱も短縮してしまい、関節の可動域が損なわれて動かなくなってしまいます。炎症が悪化しない程度のストレッチなどで関節の動く範囲を保たせ、筋肉の衰えを予防することも大事です。

こんな人に多い病気

わが国の関節リウマチの推定患者数はおよそ70万人。男性よりも3〜4倍女性に多い病気です。リウマチというと高齢になってかかる病気と思われがちですが、一般に30〜50歳代が好発年齢といわれています。ただ、最近は60歳を過ぎてから関節リウマチを発症したという人も増えてきています。

関節リウマチの患者さんの日々の生活は関節症状だけでなく、間質性肺炎(肺の間質に炎症が生じ、酸素の取り込みが悪くなる病気)などの肺疾患や、骨粗鬆症による骨折、そして感染症などによって損なわれることがしばしばあります。間質性肺炎は関節リウマチの治療薬によっても起こりうるので注意が必要です。

関節リウマチの進行は意外と早い?!

関節リウマチはゆっくりと進行して10年くらいかけて関節が壊れていくと考えられていましたが、実際には診断された最初の2年間で急速に関節破壊が進み、そこからさらに緩やかに進行していくことがわかってきました。つまり、発症後の2年はまたとない「治療の好機」ということ。ここで早期に治療を開始できれば関節破壊の進行を阻止したり、軽度なら修復したりすることができるわけです。

それには早めに関節リウマチに気づくことが第一。痛み止めで様子をみているうちに水面下で関節リウマチが進んでしまわないよう、関節炎の症状(関節が腫れる、痛みがある、赤みを持つ、熱を持つ)が現れた時点でリウマチ専門医を受診して、適切な治療を開始することが大切です。

PREVENTION

予防・改善はできるの?

関節リウマチには、いまだこれが原因と特定されるものがなく、いくつもの要因から複合的に起こると考えられています。その中でポイントとなるのが遺伝要因と環境要因。

関節リウマチは遺伝病ではありませんが、両親、祖父母など血縁者に関節リウマチの人がいる場合、“なりやすさ” を受け継いでいる可能性があります。ただし、それだけで決まってくるのではありません。生まれてからのいろいろな刺激(環境因子)が加わって免疫異常を起こしてしまうのです。現在では、喫煙習慣、歯周病のある人は関節リウマチになりやすいことがわかっており、それらが重なることでさらに発症のリスクが高まると考えたほうがいいでしょう。

このほか、細菌やウイルスの感染、腸内細菌の構成にもかかわりがあるといわれており、今なお盛んに研究されています。

関節リウマチになりやすい人はこんな人

関節リウマチの検査

関節リウマチの診断に必要な検査には血液検査と画像検査があります。血液検査では主にリウマトイド因子と抗CCP抗体で免疫異常が起きているかをみます。さらに関節の炎症の程度をCRPや血沈で、滑膜の炎症による関節破壊の程度をMMP-3で調べます。

次に関節が実際にどのようになっているかをみるための画像検査として、レントゲン撮影を行います。関節の隙間が狭まっていれば軟骨のすり減りを疑い、骨に虫食いがあれば炎症による骨びらんと考えます。ここまで進行していない早期の変化をみるには超音波検査やMRI検査が有用です。

関節リウマチの診断は、これらの検査結果や関節症状、症状の持続性などから分類基準に基づいて行われます。

どんな治療か

関節リウマチの治療は薬物療法が基本です。以前は鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬)やステロイド薬が主流でしたが、現在は抗リウマチ薬という免疫異常を抑える薬が開発されています。そのうちの一つ、免疫抑制薬のメトトレキサート(MTX)は関節リウマチ治療の土台となる重要な薬。これまでのリウマチ治療に変革をもたらし、多くの関節リウマチ患者さんの関節破壊進行を抑えました。その後、免疫の異常に関与し炎症を惹起してしまう物質(炎症性サイトカイン)をピンポイントで抑える生物学的製剤が登場したことで、これまで以上の劇的な効果を上げています。さらに、2013年には生物学的製剤と同等の効果のある新しいタイプの経口薬(JAK阻害薬)も発売。次々と効果的な薬剤が登場し、関節リウマチは今や早期診断・早期治療ができれば容易に寛解(症状がなくなって安定した状態になること)が可能な病気となっています。

TOPICS

歯科衛生士のための関節リウマチトピックス

口腔ケアと関節リウマチ

関節リウマチと歯周病とは双方向の関係性があり、歯周病の人は関節リウマチを発症しやすく、関節リウマチの人は歯周病になりやすいことがわかっています。

歯周病原因菌のPg菌(Porphyromonas gingivalis)はアルギニンというもともと体内にある蛋白をシトルリンという物質に変化させることで知られています。それを異物と認識してつくられる抗体が、関節リウマチの診断に有用な抗CCP抗体です。この抗体が身体のあちらこちらで、シトルリン化蛋白に対してどんどん炎症反応や免疫異常の反応を引き起こします。つまり歯周病が原因で免疫異常が惹起されて、それが関節の炎症に結びついてしまうのです。

逆に、関節リウマチの人が治療薬などで免疫力が低下していれば、容易に歯周病を併発しやすくなります。また、関節症状が進行すれば歯磨きなどが難しくなり、口腔内の清潔が保たれずに歯周病が悪化することもあるでしょう。さらに関節リウマチではシェーグレン症候群という唾液分泌を低下させる膠原病を合併することもしばしばあり、口腔内衛生が一層保ちにくくなります。悪循環に陥らないよう歯周病は悪化させず、きちんと管理することが大事なのです。

安全な妊娠・出産のために

関節リウマチは女性に多く発症し、妊娠・出産の時期に重なることもあります。一般に、妊娠中は関節の症状が比較的軽減するといわれています。しかし、出産後は育児で忙しく関節への負荷も増大することから症状は悪化することが多くなります。

関節リウマチ治療の要となるメトトレキサートは、妊娠中も授乳中も使うことはできません。妊娠計画がある際にも少なくとも1月経周期前には服用を中止する必要があります。ただし妊娠周期に応じて、また授乳期であっても投与できる薬剤もあるので、リウマチ専門医と相談することをおすすめします。

関節リウマチと変形性関節症

関節リウマチと同じように関節の痛みを伴う疾患に、変形性関節症があります。多くは加齢変化によって起こる病気ですが、実はどの関節に痛みが生じるかで、どちらの疾患が原因の痛みかおおよそ見分けることができます。

まず、関節リウマチは手の第1関節に症状が現れることは稀で、第2関節、指の付け根の第3関節(親指の場合は第2関節)、手関節(手首の関節)に多く現れます。第1関節が腫れて痛い場合は、ほとんどがへバーデン結節と呼ばれる変形性関節症です。第2関節に起こった場合には両方に可能性があり、関節リウマチでも変形性関節症(ブシャール結節といいます)でも障害されることがあります。

関節の腫れ方にも違いがあります。変形性関節症は骨が増殖していく変化のため、大抵は骨ばって硬く腫れてきます。これに対し、関節リウマチの場合は骨と皮膚の間の滑膜が腫れるので、耳たぶくらいのやや軟らかい腫れが特徴です。そこに炎症(滑膜炎)が生じているかは、超音波検査で確認することができます。

関節リウマチ、変形性関節症の症状が出やすい手指の関節
歯科衛生士に知ってほしい!病気のこと Vol.1
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