糖尿病 歯科衛生士に知ってほしい!病気のことvol.2

いつも見ている患者さんの全身状態に目を向けられるように、
看護師向け医療専門メディアのナース専科とタイアップ。
第2回は 『糖尿病』 について解説します!

東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 助教 高橋 紘先生

解説してくれる医師

東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 助教

高橋 紘先生

埼玉医科大学医学部卒業後、東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科に入局。日本で最初に持続血糖モニターを取り入れるなど最新治療を実践する同院で、さまざまな角度から最良の糖尿病治療に取り組む。日本糖尿病学会糖尿病専門医。

ABOUT

糖尿病はどんな病気?

私たちが普段食事でとっている糖質(炭水化物)は、消化管の酵素で分解されてブドウ糖になった後、血液中に吸収されて全身の細胞のエネルギー源になります。このとき、ブドウ糖を細胞へ取り込むのを助けているのが、膵臓から分泌される「インスリン」というホルモン。

糖質の分解から吸収の工程図

糖尿病はこのインスリンがうまく作用しなくなることで、慢性的に血液中のブドウ糖の濃度が高く(高血糖)なってしまう病気です。
インスリンが作用不足になる原因には大きく2つあります。

インスリンの効き(働き)が悪くなる

インスリン抵抗性

インスリンの量が足りない、あるいは出るタイミングが悪い

インスリン分泌不全

糖尿病は、その成り立ちから【1型糖尿病】【2型糖尿病】【その他の特定の機序、疾患によるもの】【妊娠糖尿病】の4つのタイプに分けられます。このうち90%以上を占めているのが2型糖尿病。2型糖尿病は遺伝的な要因(遺伝因子)に過食や運動不足などの生活習慣(環境因子)が組み合わさって発症します。血液検査で「糖尿病型」に分類され一定の条件を満たすと、糖尿病と診断されます。

正常値→糖尿病予備群→糖尿病の疑い

空腹時血糖値と75gブドウ糖負荷試験による判断基準

SYMPTOMS

どういう症状が現れるの?

糖尿病はその初期や軽傷であればほとんど自覚症状が現れません。しかし、高血糖が続くうちに、口の渇き、多飲(飲水量が多い)、多尿(尿量が多い)、体重減少といった特徴的な症状がみられるようになります。
また、糖尿病をそのまま放置しておくと血管が傷つき、細い血管や神経に障害が起きたり(細小血管障害)、太い血管に動脈硬化が生じたり(大血管障害)して、さまざまな合併症を引き起こします。合併症が重症化すれば、失明や人工透析、足の切断など深刻な事態に陥る原因になります。血糖値が著しく高く緊急性のある状態(高血糖緊急症といいます)では、意識障害を起こすこともあります。

大血管障害:脳梗塞、下肢閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞狭心症 細小血管障害:糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症
感染症、歯周病、糖尿病、足病変、認知症など

こうした糖尿病合併症を進行させないためには、血糖、血圧、コレステロール値の改善と禁煙が大切です。定期的な健診や眼科受診で早めに治療を開始し、重症化を防ぎましょう!

内臓脂肪型肥満と普通体型のインスリン分泌不全とインスリン抵抗値の図

こんな人に多い病気

2型糖尿病は健康診断で指摘されるまで本人も気づかないことが多い病気です。厚生労働省による2016年の国民健康・栄養調査では、糖尿病有病者と糖尿病予備軍(境界型、耐糖能異常ともいいます)はどちらも推計約1000万人。ところが、糖尿病有病者のうち4人に1人は、これまでに治療を受けたことがないことがわかっています。

糖尿病を発症しやすい人には右に挙げるような特徴があります。中でも肥満は動脈硬化のリスクであると同時に、糖尿病、高血圧、脂質異常症のリスクに。特にインスリンの働きや効きを悪くする内臓脂肪型肥満は要注意です。肥満の程度(BMI)が同じでも、皮下脂肪型肥満に比べて糖尿病の発症リスクがぐんと高くなります。

プラーク(歯垢):管理不足→歯周病・う歯:原因菌が血液中に侵入→全身疾患:糖尿病、心筋梗塞、誤嚥性肺炎、脳卒中、メタボリックシンドローム、骨粗鬆症、認知症、血液疾患、低体重児出産・早産など
PREVENTION

予防・改善はできるの?

糖尿病の予防には、肥満を解消することが大切です。まずは食事や運動習慣を見直してみましょう。基本は、脂肪を控え多様な食品をバランスよく、腹八分目に食べること、日常生活の活動量を増やすことです。

なお、欠食は次の食後の高血糖につながりやすくなります。例えば、朝食を抜くと昼食後の血糖値が、朝食と昼食を抜くと夕食後の血糖値が急上昇します。夕食だけ食べた場合の上がり方は特に顕著に!欠食することで1日の摂取カロリーは減るかもしれませんが、食事は1日3食摂取するのがおすすめです。

予防改善のための行動例

血糖値とHbA1c

糖尿病治療の指標になる血糖値とHbA1c、この2つの値でわかることには違いがあります。血糖値とは血液中に含まれるブドウ糖の濃度で、検査で採血したその時点での数値。一方のHbA1cはリアルタイムの数値ではなく、過去1〜2カ月の平均血糖値を表します。そのため、診断や治療ではHbA1cで血糖コントロールの状態を見つつ、併せて実際の血糖変動を血糖値(空腹時、食後)でチェックしているのです。

血糖値の変動グラフ

どんな治療か

2型糖尿病と診断されても早期であれば、多くの場合、食事や運動、生活習慣の見直しで血糖値のコントロールが改善できます。しかし、改善がみられないとき(HbA1c:7.0%以上、空腹時血糖値:130mg/dL以上、食後2時間血糖値:180mg/dL以上)は、血糖値の変動の特徴に合った経口血糖降下薬の内服を開始します。さらに服薬では効果のない人、1型糖尿病、高血糖緊急症ではインスリン注射を行います。こうした糖尿病の治療には、突然死のリスクとなる「低血糖」、心筋梗塞や脳卒中のリスクとなる「体重増加」などの副作用が起こる可能性があります。薬物治療ではインスリンが作用不足になる原因を見極めて、副作用を最小限に抑えつつ病態に合わせた薬剤の選択がとても重要になります。

TOPICS

歯科衛生士のための糖尿病トピックス

血糖値スパイクって何?!

食後の血糖値は、健康な人の場合、食後30分くらいでピークになり、2時間くらいでまたもとに戻る動きをします。ところが、食後一気に血糖値が急上昇した後、短時間で降下することがあります。この状態を「血糖値スパイク」と呼びます。問題なのは血糖値スパイクが糖尿病の人に限らず、正常型の人でも起きている可能性があるということ。健診時の空腹時血糖値やHbA1cだけでは、血糖値スパイクの有無は把握できないからです。こうした血糖値スパイクを繰り返していると、血管を傷める物質がつくられ血管が傷ついて、動脈硬化や2型糖尿病の発症などのリスクを高めます。食後に強い眠気や集中力の低下、頭痛などがみられる場合には、もしかすると血糖値スパイクが生じているかもしれません。
大切なのは、血糖変動の少ない良質なHbA1cを保つということ。近年では、一定の間隔で連続的な血糖測定ができるCGMやFGMという医療機器を使い、これまで測定が難しかった血糖変動の把握ができるようになってきました。

時間ごとの血糖値スパイクの遷移図

口腔ケアと糖尿病

歯周病は糖尿病の重大な合併症の一つです。これは高血糖によって感染を防御する力などが低下し、歯周病原因菌の増殖を制御できなくなるため。血糖コントロールがうまくできないことが歯周病を悪化、重症化しやすくします。実際、糖尿病の人は歯周病に2倍以上かかりやすくなることがわかっています。
逆に、歯周病が重症であるほど血糖コントロールの状態も悪くなります。歯周病の治療で歯周組織の慢性炎症が改善するとインスリンの働きが良くなり、HbA1cが0.4〜0.7%低下すると報告されています。「お誕生日健診」などで定期的に歯科健診を受ける工夫は、糖尿病や糖尿病予備軍の人にとってとても大切なことなのです。

糖尿病は国民病?!

日本人は、欧米人と比べて正常型の人でもインスリンを分泌する能力が弱く、体重増加によってわずかにインスリンの効きが悪くなるだけで糖尿病を発症しやすくなると考えられています。ただし、遺伝的背景は同じでも環境(食生活)によってなりやすさには違いが。例えば、日系アメリカ人は日本人より糖尿病の有病率が2〜3倍高いことが知られていますが、1日の摂取カロリーは日本人のほうが多く、一方、日系アメリカ人のほうが動物性脂肪の摂取量は2倍、単純糖質(果物やお菓子など)は1.5~2倍多い。飽和脂肪酸を多く含む動物性脂肪のとりすぎや食物繊維の不足が、糖尿病の有病率を高くしているといえるでしょう。
動脈硬化のリスクは糖尿病予備軍の段階から高くなり、また、膵臓の機能も糖尿病予備軍でおよそ半分に低下しています。このように、生活習慣の改善は日本人全員にとって重要といっても過言ではないのです。

歯科衛生士に知ってほしい!病気のこと Vol.1
脳卒中
歯科衛生士に知ってほしい!病気のこと Vol.3
認知症
歯科衛生士に知ってほしい!病気のこと Vol.4
メタボリックシンドローム
歯科衛生士に知ってほしい!病気のこと Vol.5
狭心症・心筋梗塞
歯科衛生士に知ってほしい!病気のこと Vol.6
関節リウマチ