メタボリック
シンドローム
歯科衛生士に知ってほしい!病気のことvol.4

いつも見ている患者さんの全身状態に目を向けられるように、
看護師向け医療専門メディアのナース専科とタイアップ。
第4回は 『メタボリックシンドローム』 について解説します!

東京逓信病院 内分泌・代謝内科 主任医長 勝田 秀紀先生

解説してくれる医師

東京逓信病院 内分泌・代謝内科 主任医長

勝田 秀紀先生

糖尿病、内分泌・代謝疾患の診療に⼒を注ぐとともに、⽇本で初めて開設されたメタボリックシンドロームに特化した専⾨外来「肥満・メタボ外来」で、外来診療と教育⼊院による⾷事・運動の指導、よりよい⽣活習慣の獲得への援助に取り組む。⽇本内科学会総合内科専⾨医・指導医、⽇本糖尿病学会糖尿病専⾨医・指導医、⽇本内分泌学会内分泌代謝科専⾨医・指導医(評議員)、⽇本肥満学会肥満症専⾨医・指導医ほか。

ABOUT

メタボリックシンドロームって何?

脂質や糖質の多い⾷習慣、運動不⾜といった⽣活習慣を続けていると、徐々に内臓の周囲に脂肪(内臓脂肪)が蓄積していきます。過剰となった内臓脂肪からは炎症性物質などが放出されるようになり、その結果、インスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなり⾎糖値が下がりにくくなる)が引き起こされて⾎管の状態が悪化し、動脈硬化の危険因⼦となる糖尿病や脂質異常症、⾼⾎圧症などが重複して⽣じるようになります。こうした内臓脂肪型肥満をきっかけに動脈硬化のリスクが相乗的に⾼まっている状態をメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)といいます。

メタボリックシンドロームの診断基準は、内臓脂肪の蓄積の程度をみる「ウエスト(へその⾼さ)の周囲径」に加え、「⾎中脂質値」「⾎圧」「⾎糖値」のうち2つ以上が⼀定の数値を超えることが条件になります。

メタボリックシンドロームの判断基準
SYMPTOMS

どういう症状が現れるの?

メタボリックシンドロームは、それだけの状態であれば基本的には無症状です。しかし、放置すると糖尿病や脂質異常症をはじめとした代謝性疾患や、⾼⾎圧症を発症し、ひいてはそれらを基盤として発症する冠動脈疾患(虚血性心疾患)、脳⾎管障害(脳卒中)などを引き起こす可能性が⾼くなります。つまり、重症化するまで⾃覚症状がないことが⼀番の危険であり、症状がない間にも動脈硬化は着々と進んでいるのです。

メタボリックシンドロームの症状例

こんな人に多い病気

厚生労働省の「健康日本21(第二次)」によると、メタボリックシンドロームの該当者は2008年度で約1400万人。「主要な生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底に関する目標」として、2015年度は2008年度の25%減少を目標としていました。しかし、2016年の国民健康・栄養調査報告の結果をみると、男性肥満者の割合が2008年の28.2%に対して2015年では29.8%に増加しており、それに比例してメタボリックシンドロームの該当者も増えている可能性が十分にあります。肥満者の多くが複数の危険因子を併せ持っていることを考えると、メタボリックシンドロームを標的とした対策が今後いかに重要になるかがわかります。

肥満とウエスト周囲径

肥満は、糖尿病、脂質異常症、高血圧症や、それらを基盤として発症する冠動脈疾患、脳血管障害だけでなく、睡眠時無呼吸症候群、腎障害、骨・関節疾患、月経異常といったさまざまな健康障害を引き起こす原因になります。

日本肥満学会では1200人の腹部CT検査の結果から内臓脂肪面積が100cm2を超えると、高血糖、脂質異常、高血圧を合併するリスクが50%以上高くなることを見いだし、これを内臓脂肪蓄積の基準としました。しかし、費用や放射線照射などの課題からCT検査を一般健診に使用することは困難なため、集団健診でも行える簡便な検査方法として、CT検査による内臓脂肪面積100cm2に相当するウエスト周囲径(男性85cm以上/女性90cm以上)をメタボリックシンドロームの診断基準としています。

PREVENTION

予防・改善はできるの?

メタボリックシンドロームは、心筋梗塞や脳卒中といった動脈硬化性疾患を引き起こす原因の集合体といえる状態です。早い段階からしっかりと予防や治療を行うことが大切であり、それには規則正しい生活習慣を身につけることが第一です。普段から過度な飲酒や食事、喫煙、ストレスを避け、1週間に2回は汗をかくような運動(1日1時間以上が効果的)をして、適正な体重維持に努めましょう。

生活習慣の例

特に、定期健診で体重の増加が気になったり、メタボリックシンドロームを指摘されるようになったときには改善対策が必要です。改善のための目標設定としては、18〜49歳なら普通体重のBMI 18.5〜25未満が目安になります。
ちなみに、日本肥満学会の肥満度分類では、BMI 18.5未満を低体重(やせ)、25以上は肥満(肥満症)として4段階に分け、35以上を高度肥満症と定義しています。

年齢別の目標BMI BMI=体重(kg)/身長(m)の2乗

BMIの基準

肥満度の指標として用いられるBMI(体格指数)で基準となるのが標準体重の「22」。これは30〜59歳の日本人男女およそ5000人の健康診断の結果、肺疾患、心疾患、上部消化管疾患、高血圧、腎疾患、肝疾患、脂質異常症、高尿酸血症、糖尿病、貧血の10項目の病気に最もなりにくい状態がBMI22であったことからきています。

どんな治療か

メタボリックシンドロームの治療は、食事療法と運動療法が中心です。食事療法は標準体重〈身長(m)2×22〉あたり25kcal/日のエネルギー摂取量が基本。個々の肥満症患者に適した摂取エネルギー量を医師や栄養士が指示し、減量効果が不十分であればさらに少ないエネルギー量を再設定して指導します。運動療法は体重コントロールの目標に応じた身体活動量を設定。まずは中強度(ややきつい程度)の運動を週150分以上行い、2〜3kgの減量を目標とします。BMIが35を超える高度肥満症では、6カ月の内科的治療に効果がなく、糖尿病や高血圧症、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群のうち一つを合併している場合には、胃を小さくする外科的治療(腹腔鏡下スリーブ状胃切除術)を考慮することもあります。

カルーボネン法で中強度の運動を計算してみましょう。 目標心拍数=(最大心拍数 - 安静時心拍数) * 運動強度(中強度50%) + 安静時心拍数
TOPICS

歯科衛生士のためのメタボトピックス

口腔ケアとメタボリックシンドローム

メタボリックシンドロームと歯周病との関連性については、わが国の疫学調査では久山町コホート研究で検討されています。それによると、メタボリックシンドロームの5つの診断基準*のうち陽性項目が4つ以上の人は、陽性項目が全くない健常者に比べて歯周病のリスクが6.6倍に上昇していることがわかりました。歯周病原因菌の代表格であるグラム陰性菌は、その周囲が内毒素(細胞壁に存在する毒素)であるリポ多糖(LPS:lipopoly saccharide)で構成されているのですが、慢性的にLPSの血中濃度が高くなると、肝臓や脂肪組織に脂肪がつきやすくなり、インスリン抵抗性が上昇することが報告されています。

このほか、歯周病の人はメタボリックシンドロームになりやすく、悪化しやすいことも明らかになっており、歯周病とメタボリックシンドロームの関係は基礎・臨床研究の両側面から実証されてきています。

*米国NCEP-ATPⅢの診断基準による(ウエスト周囲径、中性脂肪、HDLコレステロール、血圧、空腹時血糖値の5項目)。

メタボリックシンドロームの陽性項目数と歯周病の関係性

メタボは認知症とも関係?!

高齢化に伴い、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)を発症する人が増えています。シンガポールで行われた研究によると、6年間の追跡期間中にメタボリックシンドロームと判定された人の14%、そうでない人の8%がそれぞれMCIを発症していました。ウエスト周囲径の増加、中性脂肪の上昇、HDLコレステロールの低下などは心筋梗塞や狭心症などのリスクですが、最近では認知症の発症にも関与することが推察されています。インスリンは脳でも代謝を促す重要な役割があり、糖尿病や耐糖能異常のある人で生じるインスリン抵抗性は脳のインスリン代謝にも悪影響を及ぼしているようです。

運動不足、不健康な食事、喫煙、過剰なストレスなどによる不健康な生活習慣をもつ人はメタボになりやすく、この習慣が繰り返されて、メタボが解消されない場合は、結果として認知症のリスクが上昇するおそれがあります。中年期に体重を適正にコントロールし、メタボ対策を早期に開始することで、将来の認知症の発症を減らすことができるかもしれません。

体重日記をつけよう!

メタボリックシンドロームの予防や改善のために減量したいなら、体重は毎日測って管理することが重要です。ポイントは朝起きたときと寝る前(夕食を食べた後)の2回測ること。つまり1日のうちで一番軽い体重と重い体重を記録しておきます。その差は日によってもまちまちですが、差が狭ければ体重は減りやすくなります。

歯科衛生士に知ってほしい!病気のこと Vol.1
脳卒中
歯科衛生士に知ってほしい!病気のこと Vol.2
糖尿病
歯科衛生士に知ってほしい!病気のこと Vol.3
認知症
歯科衛生士に知ってほしい!病気のこと Vol.5
狭心症・心筋梗塞
歯科衛生士に知ってほしい!病気のこと Vol.6
関節リウマチ